睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療:適応と効果
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医療アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題については、必ず医師にご相談ください。編集ポリシー

睡眠時無呼吸症候群(SAS)のマウスピース治療(口腔内装置療法)について、適応条件、効果のエビデンス、CPAP療法との比較、費用、メリット・デメリットを詳しく解説。保険適用で1〜2万円から始められる治療法の全知識をまとめました。
睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療:適応と効果
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法として、CPAP療法に並んで注目されているのがマウスピース(口腔内装置:OA)を使った治療です。歯科医院で作製する専用の装置を就寝時に装着することで、気道を確保し、いびきや無呼吸を軽減します。2004年から保険適用となり、比較的手軽に始められる治療法として多くの患者さんに選ばれています。
この記事では、マウスピース治療の仕組みや適応条件、効果のエビデンス、費用、メリット・デメリットまで、睡眠時無呼吸症候群の治療を検討している方に必要な情報を詳しく解説します。
マウスピース治療(口腔内装置療法)とは
マウスピース治療は、正式には口腔内装置(Oral Appliance:OA)療法と呼ばれます。別名「スリープスプリント」とも呼ばれるこの装置は、就寝時に口の中に装着することで下顎を前方に移動させ、気道を広げる仕組みです。
治療のメカニズム
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に舌や軟口蓋が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなったり塞がったりすることで無呼吸が発生します。マウスピースを装着すると以下の効果が得られます。
- 下顎が前方に固定され、舌根部が引き上げられる
- 気道の空間が広がり、空気の通り道が確保される
- 舌の沈下を防止し、いびきや無呼吸を軽減する
いびきの原因やメカニズムと密接に関係しており、気道の物理的な閉塞を防ぐことが治療の基本的な原理です。
マウスピースの種類と特徴
治療用のマウスピースには主に2つのタイプがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。
| 項目 | 上下一体型(モノブロック型) | 上下分離型(ツインブロック型) |
|---|---|---|
| 構造 | 上下の歯型が一体化 | 上下が分かれて連結 |
| 保険適用 | ○(適用あり) | ×(自費診療) |
| 費用目安 | 1〜2万円 | 10〜20万円 |
| 顎の自由度 | 低い(固定) | 高い(動かせる) |
| 顎関節への負担 | やや大きい | 小さい |
| 前方移動量の調整 | 作り直しが必要 | 装着後も微調整可能 |
| 携帯性 | やや大きい | コンパクト |
| 装着感 | 慣れが必要 | 比較的快適 |
上下一体型は保険が適用されるため費用を抑えられますが、顎を固定するため違和感を感じる方もいます。一方、上下分離型は自費になるものの、装着感に優れ、調整もしやすいのが特徴です。
マウスピース治療の適応条件
マウスピース治療は、すべての睡眠時無呼吸症候群の患者さんに適しているわけではありません。適応にはいくつかの条件があります。

適応となるケース
- 軽度〜中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI 5〜30程度)
- 単純性いびきの改善を希望する場合
- CPAP療法が継続できない方の代替療法として
- 重度SASでもCPAPに適応できない場合の選択肢
適応の前提条件
マウスピースを使用するためには、以下の口腔内の条件を満たす必要があります。
- 歯が上下合わせて20本程度以上あること
- 下顎を上顎より8mm以上前方に移動できること
- 重度の歯周病やう蝕(虫歯)がないこと
- 重度の顎関節症がないこと
歯周病や虫歯がある場合は、まずそれらの治療を優先し、口腔内の状態を整えてからマウスピースを作製します。顎関節症については、軽度であれば十分な経過観察のもとで使用できる場合もあります。
マウスピース治療の効果に関するエビデンス
マウスピース治療の効果は、多くの臨床研究で実証されています。

研究データが示す有効率
世界で報告された141の論文を検討したメタ分析によると、軽度から重度の睡眠時無呼吸症候群において平均52%の患者にマウスピース治療の効果が認められました(出典)。
また、34のランダム化比較試験(RCT)のメタ分析では、口腔内装置によってAHI(無呼吸低呼吸指数)が平均13.6イベント/時間減少することが示されています(出典)。
CPAP療法との比較
| 比較項目 | CPAP療法 | マウスピース療法 |
|---|---|---|
| AHI改善効果 | 非常に高い | 中程度 |
| 装着コンプライアンス | やや低い | 高い |
| 総合的な治療効果 | ○ | ○(同等との報告あり) |
| 装着の手軽さ | △(マスク・機器が必要) | ○(装置のみ) |
| 携帯性 | △ | ○ |
| 騒音 | あり | なし |
CPAPの方がAHI改善効果は高いものの、マウスピースは装着のしやすさから治療継続率(コンプライアンス)が高く、結果として総合的な治療効果はCPAPと同等になるとの研究結果もあります(出典)。
ただし、約3分の1の患者には治療効果が得られないとの報告もあるため、治療開始後にはPSG検査などで効果の確認が重要です。CPAP療法が続けられない方にとって、マウスピースは有力な代替手段となります。
マウスピース治療の流れ
マウスピース治療を開始するまでの一般的な流れを解説します。

ステップ1:医科での診断
まず、耳鼻咽喉科や呼吸器内科などの医科で睡眠時無呼吸症候群の確定診断を受けます。簡易検査やPSG検査を行い、AHIなどの数値を確認します。
ステップ2:歯科への紹介
医科から歯科への診療情報提供書(紹介状)を発行してもらいます。保険適用でマウスピースを作製する場合、この紹介状が必須です。
ステップ3:歯科での診察・作製
歯科医院で口腔内を診察し、歯周病や虫歯のチェックを行います。問題がなければ歯型を取り、2〜3週間程度でマウスピースが完成します。
ステップ4:装着・調整
完成したマウスピースを装着し、下顎の前方移動量を調整します。最初は違和感がありますが、1〜2週間で慣れる方がほとんどです。
ステップ5:効果判定
装着して一定期間経過後、再度睡眠検査を行い、AHIの改善を確認します。効果が不十分な場合は調整や他の治療法への切り替えを検討します。
マウスピース治療の費用と保険適用
日本では2004年から保険適用となっており、経済的な負担が少ない治療法です。
保険適用の条件
- 医科で睡眠時無呼吸症候群の確定診断を受けていること
- 医科からの紹介状があること
- 上下一体型の口腔内装置であること
保険適用の場合、3割負担で約1〜2万円程度で作製できます。一方、上下分離型(カスタムメイドの高機能タイプ)は自費診療となり、10〜20万円程度の費用がかかります。
CPAP療法の費用と比較すると、CPAPは月額約5,000円程度のレンタル費用が継続的にかかるため、長期的にはマウスピースの方がコストパフォーマンスに優れる場合もあります。
マウスピース治療のメリットとデメリット
メリット
- 手軽で簡便:装着するだけで使え、電源不要
- 携帯性に優れる:出張や旅行にも持ち運びやすい
- 騒音がない:CPAPのような機械音がない
- 保険適用:経済的負担が少ない
- コンプライアンスが高い:継続しやすい
デメリット
- 重度SASには効果が限定的:すべての患者に有効ではない
- 顎関節への負担:痛みや違和感が生じることがある
- 歯の移動リスク:長期使用で歯並びが変わる可能性がある
- 口内乾燥:口が開きやすくなり、乾燥を感じることがある
- 定期的なメンテナンス:歯科での調整やクリーニングが必要
いびき防止グッズとの違いとして、市販のマウスピースは歯型に合わせて作られていないため効果が限定的です。治療用のマウスピースは歯科医が精密に作製するため、高い効果が期待できます。
マウスピース治療に向いている人・向かない人
向いている人
- 軽度〜中等度のSASと診断された方
- CPAPが使えない・続かない方(CPAPのコンプライアンス問題参照)
- 出張や旅行が多い方(携帯性重視)
- いびきの改善を主な目的とする方
- 静かな治療法を希望する方
向かない人
- 重度のSASで、CPAPが使用可能な方
- 歯が少ない方(残存歯20本未満)
- 重度の歯周病がある方
- 重度の顎関節症がある方
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群の方
重度SASの場合でも、CPAPがどうしても使用できない場合には、マウスピースが検討されることがあります。その場合は手術療法との併用を含めた総合的な治療計画を立てることが重要です。
マウスピース治療を成功させるためのポイント
マウスピース治療の効果を最大限に引き出すためのポイントをまとめます。
1. 睡眠時無呼吸症候群に精通した歯科医を選ぶ
一般の歯科医院ではなく、SAS治療用のマウスピース作製に実績のある歯科医院を選びましょう。専門外来の見つけ方も参考にしてください。
2. 定期的なフォローアップを受ける
装着後も定期的に歯科を受診し、装置のフィット感や口腔内の状態をチェックしてもらいましょう。
3. 生活習慣の改善を並行する
マウスピース単独では限界があります。減量によるSAS改善やいびきと肥満の関係を理解し、生活習慣の見直しも行いましょう。
4. 効果の判定を必ず行う
治療開始後は必ず再検査を行い、AHIが十分に改善しているかを確認します。効果が不十分な場合は、CPAPや他の治療法への変更を検討する必要があります。
まとめ:マウスピース治療は軽度〜中等度SASの有力な選択肢
マウスピース治療は、軽度〜中等度の睡眠時無呼吸症候群に対して平均52%の有効率が報告されている、科学的根拠のある治療法です。CPAPと比較して手軽で携帯性に優れ、保険適用で1〜2万円という費用面のメリットもあります。
ただし、すべての患者さんに効果があるわけではなく、特に重度のSASでは効果が限定的です。治療の成功には、適切な歯科医の選択、定期的なフォローアップ、そして生活習慣の改善が不可欠です。
まずは睡眠時無呼吸症候群の検査を受けて正確な診断を得た上で、主治医と相談しながら最適な治療法を選択しましょう。いびきや無呼吸の症状が気になる方は、早めの受診をおすすめします。
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